ASP.NET エッセイ

Before the Program

エッセイ「ビフォー・ザ・プログラム」

とりとめなく,この20年を思う

 個人事業を始めた当初は,在職時の残務処理と連載執筆のかたわら,週3回ほどパソコン塾を開いていた。Word/Excelとインターネットの基礎が2時間×5回コースだ。1時限目の最後には必ず、FMVのガワを外して「これがメモリ、これがIDE、これが...」なんて教えていた。「増設なんて難しそうに聞こえるけど、これコンセントみたいに挿すだけ、誰でもできるんだからさぁ、できるだけ業者に頼まないで自分でやった方がいいよ、自分のパソコンだもんね」そうすると国安が「せっかく習うんだったら,増設でン千円ン万円もサポート料払うようなコトしちゃいかんよ。」受講生には主婦が多かったので、財布のヒモの話をすれば皆ナットクして真剣になる。
 当時,国安は会社員だったが,人口1万人の狭い町内のこと,受講生は全員顔なじみ。悪ノリをして「これだけ頑丈に部品が付いているので、パソコンは少々ぶっ叩いたくらいでは壊れない、落とさない限り大丈夫ですよ、怖くないですよ」と、ガワを叩く。おいおい叩くな、わたしのFMVを。まぁ、ここまで断言すれば、受講生は安心してパソコンに触れるというものだ。

パソコンの購入相談もしていたので、「お店へ行って自分で見て買いたい」という受講生にはトンデモナイことを教えていた。客としてパソコンショップに行った時の店員とのやりとりの模範演技である。これを事務所に常時置いていた最新のカタログを使って、実際に身振り手振りで演じて教える。つまり、スペック表の見方と質問の仕方だ。「全くの初心者でパの字も分からない」という顔をしているのと,スペック表を見ながら詳細な希望を伝えることができるのとでは,店員の熱意の違うことが多いからだ。
 スペック表を見るには,当然,OSやメモリなどについても触れなければならない。OSの話をし始めると,国安がうれしそうに,MS-DOS時代の思い出話をし始める。数年前は,個人ではWindowsを触っていても,会社ではまだDOSアプリケーションが使われているというケースも少なからずあった。あの黒い画面の...と言うと,それ事務の人が使っていた,見たことあるわ!という話で盛り上がる。パソコン初心者に「OS」という言葉を使ったら引いてしまうかといえば,そんなことはない。
 受講生に聞いたところでは,一般のパソコン教室では,「まず,このメニューを選んで,次にここでクリックして...」という操作手順のみ教えるケースが多いらしい。だから,ブラインドタッチができるのに,プリント基板もメモリも見たことがない,OSって何?っていう人がいるのだとか。たしかに,パソコンの中を見ただけで何かの知識が身に付くわけじゃなし,何が何だか分からないかもしれない。でも,「あっ,中はこんなになってるんだ」とビックリするだけでもいいんじゃないかなあ。
 パソコンのガワを外すと,P板(プリント基板)がたくさん付いている。P板の上には,パーツがちょんと座っている。このP板の回路の中を,信号が流れている。interconnection(P板同士の連結)は,P板の上のコネクタで接続される。一枚のP板にあるコネクタと,このコネクタに接続するP板上のコネクタのピン数は同じだ。だから,パソコン初心者にだって,「ケーブルを買いに行く時は,ピンの数を控えて行くといいよ」と言えば,なるほどそうか,とナットクする。

 いまは,パソコンの中を見ると,ほんとうにコンパクトになっていて,きれいだ。20年ほど前のAV機器の基板を思い出すと(パソコンのことは知らないけど共通点はあるだろう),なんとも無骨だったなあと思う。チップ部品が珍しかった時代だ。たしか一番最初にチップの乗ったのがLuminance/Chrominance(輝度信号,色信号)で,次がU/V Tunerだった。
 PROJECT KySSの事務所には,わたしが婚礼家具(?)として持ってきた14インチのTVがある。もう10年ほど前のもので,なぜXMLやASP.NETの情報を発信している事務所に,こんな古い,しかも室内アンテナのTVがあるのか,来客は皆いぶかる。しかし,きれいに映るのだから,買い換えられない。物持ちがいいので仕方ない。
 このTVの前に持っていたのが,「日本で初めてのICを使ったTV」で,取扱説明書には,小さな回路図まで付属していた。見ると,たしかに,一個だけICがついているのだが,多くがNC(空きピン)だった。

 チップ部品が珍しかった時代から,たったの20年。家電製品は小型化し,パソコンも既に家電といってもいい位置にある。ケータイにブラウザが搭載される時代である。技術進化の,何と速いことか。つい先日までDOSアプリケーションを使っていたような気がするのに。DOSアプリケーションをWindowsに移植すべきかどうか,DOSアプリの方が速いが将来性はWindowsだ...ユーザの現段階でのメリットをとるか,販売促進面における将来性をとるか,なんて喧々囂々と会議していたのが,つい先日のことのようだ。なのに,.NET Frameworkの登場で,アプリケーションは,DOSから,Windowsへ,そしてインターネットへとプラットフォームを変えていくという。

 先端で開発を続けるIT技術者たちと,まだ,これからパソコンに触る人たちの間の知識や情報格差が広がっている。その隙間を埋めていくことが,わたしたちの仕事なのかもしれないなあ,と,年寄り二人はしみじみ語り合うのである。

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